相続税専門税理士の富山です。
今回は、夫が自分に生命保険を掛け、妻を受取人にしていたが、その夫婦及びその唯一の子が同時に死亡した場合の、その生命保険金の受取人についての判決事例について、お話します。
出典:TAINS(Z999-5159)(一部抜粋加工)
最高裁判所平成19年(受)第1349号共済金請求事件(棄却)(確定)
平成21年6月2日判決
想う相続税理士秘書
事例の事実関係の概要
本件契約に適用される年金共済約款(普通約款)には、
ア 共済契約者は、死亡給付金の支払事由が発生するまでは、死亡給付金受取人を変更することができる(33条1項)
イ 死亡給付金受取人の死亡時以後死亡給付金受取人の変更が行われていない間に死亡給付金の支払事由が発生したときは、死亡給付金受取人の死亡時の法定相続人(法定相続人のうち死亡している者があるときは、その者については、その順次の法定相続人)で死亡給付金の支払事由の発生時に生存している者を死亡給付金受取人とする(33条3項。以下「本件条項」という。)
という規定がある
夫と妻、その間の唯一の子である次男は同時に死亡(死亡の先後は明らかではない)
妻の両親のうち、父は既に死亡していて、母は健在である
夫の両親は既に死亡していて、夫には兄弟や死亡した兄弟の子(甥)がいる
死亡保険金を受け取ることができるのは誰?
上記の場合、夫の死亡保険金を受け取るのは誰でしょうか?
民法(一部抜粋)
第六節 同時死亡の推定
第三十二条の二 数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。
夫・妻・次男は、上記の「同時死亡」と推定されます。
受取人である妻は死亡しています。
「生命保険金の受取人である妻」の相続人は夫と次男ですが、どちらも同時死亡です。
死亡保険金を受け取ることができるのは、夫の兄弟達でしょうか?
それとも、妻の母でしょうか?
死亡した妻(夫の死亡保険金の受取人)の相続人は誰?
民法(一部抜粋)
(相続開始の原因)
第八百八十二条 相続は、死亡によって開始する。
妻が死亡した時に、妻の相続が開始します。
「何を当たり前のことを!」と思われるかもしれませんが、誰が財産を相続するかというと、その時点で財産を承継できる人、つまり、その時点でご存命の方、ということになります。
今回の例に当てはめてザックリ言うと、妻の相続が発生した時に亡くなっている夫・次男は、相続人になれない、ということです。
そうすると、前記事実関係によれば、民法32条の2(同時死亡の推定)の規定により、被共済者である夫と指定受取人である妻とは同時に死亡したものと推定され、夫は妻の法定相続人にはならないから、夫の相続人である夫の兄弟達が死亡保険金受取人となることはなく、また、妻と次男も同時に死亡したものと推定され、次男も妻の法定相続人にはならないから、本件契約における死亡保険金受取人は、本件条項により、妻の母のみとなる
死亡保険金受取人である妻の相続人は、夫でも次男でもありません(妻死亡時に同時に亡くなっているため)。
そうすると、妻の相続人は妻の母になるため、夫の死亡保険金は妻の母のモノ、ということになります。
想う相続税理士