令和5年度税制改正の背景
暦年課税と相続時精算課税の違い
暦年課税は、生前贈与により相続税の課税を逃れようとする行為を防ぐ目的で、相続税よりも高い税率に設定されている
相続時精算課税は、財産の前渡し(=生前贈与)を促進することで、受贈者(財産をもらう人)がどんどんお金を使い、それにより景気を良くしようとして平成15年に導入されたモノである
相続時精算課税による贈与は、最終的に相続税が課税される(贈与税を払っても精算されて相続税課税で完結する)ため、課税的には、相続で財産を取得するのと同じ、でも、先に財産は取得できる、つまり、生前贈与により早期に財産をもらうことができるのに、課税は相続まで繰り延べられる(例え贈与税を払ったとしても、それは必ず相続税の申告において精算されるため、その贈与税は相続税の前払い的な正確を有する)
つまり、相続時精算課税による贈与には、税金の支払いを先送りして生前贈与を受けられるというメリットがある
相続時精算課税制度が普及しなかった理由
しかし、相続時精算課税はあまり普及しなかった
上記のようなメリットはあるモノの、主に下記のようなデメリットがあるためと思われる
- 少額でも申告しなければならない(申告しないと2,500万円の特別控除額が適用できない)
- 贈与財産が値下がりしても、贈与時の値下がり前の評価額で相続税が計算される
- 受贈者(もらう人)が先に死亡した場合には二重課税が発生する
国も、適用対象者の要件について、贈与者(あげる人)の年齢制限を「65歳以上」から「60歳以上」に引き下げたり、受贈者(もらう人)が「子供」だけじゃなく「孫」でもいい、ということにしたりして、相続時精算課税を普及させようとした
しかし、それらの改正もあまり効果がなく、国税庁の「令和3年度 贈与税 贈与財産価額階級別」の資料によれば、令和3年中の暦年課税分の贈与は1,736,840百万円、相続時精算課税分の贈与は679,585百万円であり、相続時精算課税の占める割合は30%未満となっている
相続税と贈与税の一体化と贈与税の課税方法の見直しが検討され始める
令和に入ると、「資産移転の時期の選択に中立的な相続税・贈与税に向けた検討」が始まった
令和3年度税制改正大綱(一部抜粋加工)
高齢化等に伴い、高齢世代に資産が偏在するとともに、相続による資産の世代間移転の時期がより高齢期にシフトしており、結果として若年世代への資産移転が進みにくい状況にある。
高齢世代が保有する資産がより早いタイミングで若年世代に移転することになれば、その有効活用を通じた、経済の活性化が期待される。このため、資産の再分配機能の確保に留意しつつ、資産の早期の世代間移転を促進するための税制を構築することが重要な課題となっている。
わが国の贈与税は、相続税の累進回避を防止する観点から、高い税率が設定されており、生前贈与に対し抑制的に働いている面がある。一方で、現在の税率構造では、富裕層による財産の分割贈与を通じた負担回避を防止するには限界がある。
諸外国では、一定期間の贈与や相続を累積して課税すること等により、資産の移転のタイミング等にかかわらず、税負担が一定となり、同時に意図的な税負担の回避も防止されるような工夫が講じられている。
今後、こうした諸外国の制度を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化の防止等に留意しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。
想う相続税理士