相続税専門税理士の富山です。
今回は、亡くなった方の口座から、亡くなる数日前に、相続人の手によって引き出された多額のお金の行方が不明だった場合に、それが相続財産とされた事例について、お話します。
預金から引き出されたお金の行方は?
相続税は、亡くなった方の亡くなった日における財産に対して課税されます。
預貯金の場合、亡くなった日における口座の残高が、相続税の課税対象となります(定期預金等は既経過利子を加味)。
その死亡日現在の残高を減らすために、生前に口座からお金を引き出せば、相続税が安くなるかというと、そんなことはありません。
引き出したということは、手元にお金があるハズです。
つまり、引き出した分は、現金として申告する必要があります。
引き出した現金は足が付かないから申告不要?
引き出したお金を相続人に贈与したりすれば、現金として申告する必要はなくなりますが、生前贈与加算の対象となって相続税が課税されたり、または、贈与税が課税されたりします。
しかし、亡くなった方がご自分でその現金を使って無くなってしまえば、相続税は課税されません。
その場合、相続税の申告において、相続人は、その出金されたお金の動き(どう使って無くなったか)を税務署にきちんと説明できるようにしておく必要があります。
「分からないから申告しなくていいでしょ」と言っても税務署には通用しません。
使った事実がないので消去法で相続財産と認定された事例
J83-4-19
(相続税の課税財産の認定) 被相続人の相続開始数日前に相続人によって引き出された多額の金員は、被相続人によって費消等された事実はないことから相続財産であると認定した事例
平23-06-21公表裁決(一部抜粋加工)相続開始数日前に相続人によって引き出された50,000,000円もの金員の使途について、相続人は不自然、あいまいな申述をするのみで、不明のままであったが、被相続人が費消等した事実は認められなかったために、被相続人の相続財産であると認定した
被相続人が、50,000,000円という高額な金員を家族に知られないまま費消することは通常であれば考えられないことに加え、本件金員をギャンブル等の浪費によってすべて費消するには相続開始前の数日間では短すぎるのであって、被相続人の消費傾向に照らしても、本件金員がすべて費消されたとは考え難く、また、被相続人自身、数日後に死亡するとは考えておらず、多額の費用が必要な手術の準備をしていた時に、本件金員を引き出す直前の預貯金残高の8割を超え、総所得金額の2倍以上に相当する50,000,000円もの金員が、そのような短期間で軽々に費消されたとも考え難い
原処分庁及び当審判所の調査の結果によっても、本件金員が、相続開始日までに、他の預金等に入金された事実、債務の返済や貸付金に充てられた事実、資産の取得又は役務の提供の対価に充てられた事実、その他何らかの費用に充てられた事実はなく、家族以外の第三者に渡されたような事実もない。以上のとおり、通常想定し得る金員の流出先についてみても、本件金員が費消等された事実はなかったのであるから、本件金員は被相続人によって費消等されなかったと認めることができ、ほかにこれを覆すに足りる証拠はない。したがって、本件金員は、本件相続の開始時点までに被相続人の支配が及ぶ範囲の財産から流出しておらず、本件相続に係る相続財産であると認められる
想う相続税理士