相続税専門税理士の富山です。
今回は、成年後見人として亡くなった方の日常生活を支え、身の回りの世話をしていても、生計一親族と認められなかった事例について、お話します。
特定事業用宅地等は生計一親族の事業用宅地等でもOK
相続税の計算においては、一定の居住用または事業用の宅地等について、その評価額を80%または50%減額して申告することができる「小規模宅地等の特例」という制度があります。
この特例には、特定居住用宅地等・特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等・貸付事業用宅地等の4パターンがあるのですが、「特定事業用宅地等」は、個人事業主の事業用宅地等に係る特例です。
亡くなった方の事業用宅地等も対象になりますが、「亡くなった方と生計を一にしていた親族(生計一親族)」の事業用宅地等も対象となります。
相続税法には「生計一親族」の定義がない!
「生計一(生計を一にする)」とはどんな状態を指すのか、ということについては、相続税法上は明確に規定されていません。
私はお客様に、「『お財布が一緒』でしたか?」というように確認しています。
所得税基本通達には次のように定められていて、税目は違うものの、この取扱いを参考に判断することが多いモノと思われます。
所得税基本通達(一部抜粋)
2-47 生計を一にするの意義
法に規定する「生計を一にする」とは、必ずしも同一の家屋に起居していることをいうものではないから、次のような場合には、それぞれ次による。
(1) 勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとする。
イ 当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合
ロ これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合
(2) 親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。
「日常生活の資を共通にしていた」かどうかがポイント
亡くなった方の成年後見人をしていた別居親族である相続人が、亡くなった方の生計一親族として認められなかった事例があります。
出典:TAINS(F0-3-670)
(小規模宅地等の特例/特定事業用宅地等/「生計を一にしていた」親族の該当性)
被相続人と同居していなかった親族が「生計を一にしていた」と認められるためには、当該親族が被相続人と日常生活の資を共通にしていたと認められることを要し、そのように認められるためには、少なくとも、居住費、食費、光熱費その他日常の生活に係る費用の主要な部分を共通にしていた関係にあったことを要するものと解するのが相当
請求人Aと被相続人は、同居しておらず、請求人Aは、被相続人に係る食費、訪問介護費、日用品費及び医療費等について、被相続人名義の預貯金口座から出金した金銭等により支払っており、被相続人の居宅に係るガス、水道及び電気の使用料金も被相続人名義の預金口座から支払われていることからすれば、請求人Aと被相続人の間で、居住費、食費、光熱費その他日常の生活に係る費用の主要な部分を共通にしていた関係にはなかったといわざるを得ず、他に日常生活に係る費用の主要な部分を共通にしていたことを示す事実も認められない。したがって、請求人Aは、被相続人と「生計を一にしていた」親族ではないと認められる
想う相続税理士
ここにいう「生計を一にしていた」とは、同一の生活単位に属し、相助けて共同の生活を営み、あるいは日常生活の資を共通にしていたことをいい、また、「生計」とは、暮らしを立てるための手立てであって、通常、日常生活の経済的側面を指すものと解される