相続税専門税理士の富山です。
今回は、遺産分割協議が、詐害行為取消権の対象となり得る、ということについて、お話します。
コンテンツ
法定相続分どおりに遺産分割しなくてもOK
相続が発生した場合、遺言がなかったときは、相続人間で遺産分割協議(遺産分けの話し合い)をして、実務的には、遺産分割協議書を作成し、そこに相続人全員の実印を押印することになります。
誰がどの財産を取得するのかなど、遺産分割協議の内容を記載するのですが、遺産はどのように分けても構いません。
法定相続分のとおりに分けなければならない、と思い込んでいる方がいらっしゃいますが、誰か1人が全財産を相続しても、相続人全員が納得していれば問題ありません。
民法(一部抜粋)
(遺産の分割の協議又は審判)
第九百七条 共同相続人は、次条第一項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
相続した後に没収されちゃうんだったら相続しない?
債務の連帯保証人になっている方は、その連帯保証に係る債務者が債務を弁済できない場合には、債権者からその連帯保証債務を履行するよう請求されます(代わりに返済することを要求されます)。
もし、相続人の中に連帯保証人になっている方がいる場合、その方が財産を相続すると、その相続財産が返済に充てられてなくなってしまう可能性があると考え、他の相続人だけで財産を相続するという遺産分割協議書を作成し、財産を債権者に取られないようにする、ということは可能なのでしょうか?
債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消し
出典:TAINS(J84-4-15)
最高裁判所第二小法廷平成10年(オ)第1077号貸金及び詐害行為取消請求事件(棄却)(確定)
金融機関から連帯保証人として建物を相続登記するよう求められた
1 上告人ら(控訴人・被告)の母である乙は、X及びYが被上告人A信用金庫(被控訴人・原告)に借り受けた300万円の債務について連帯保証していたところ、X及びYが右債務の支払を遅滞したことから、被上告人は、乙に対し、右連帯保証債務の履行及び乙の夫である亡丙の相続財産である本件建物について相続を原因とする所有権移転登記手続を求めた。
連帯保証人が建物を相続しないという遺産分割協議を行った
乙及び上告人らは、本件建物について、乙はその持分を取得しないものとし、上告人らが持分二分の一ずつの割合で所有権を取得する旨の遺産分割協議を成立させ、その旨の所有権移転登記を経由した。
遺産分割協議は法律行為なので詐害行為取消権の対象
民法(一部抜粋)
(詐害行為取消請求)
第四百二十四条 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。
「返済を避けるためにワザと財産を取得しなかった」という行為の取消が求められ、認められました。
本件は、被上告人が上告人らに対し、右遺産分割協議を詐害行為であるとして取り消し、右建物の持分六分の一について乙に所有権移転登記手続をすることを求める事案である。
2 共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となり得るものと解するのが相当である。けだし、遺産分割協議は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について、その全部又は一部を、各相続人の単独所有とし、又は新たな共有関係に移行させることによって、相続財産の帰属を確定させるものであり、その性質上、財産権を目的とする法律行為であるということができるからである。
想う相続税理士