相続税専門税理士の富山です。
今回は、相手の名義で作った定期預金の証書を渡して、「あげます」・「もらいます」の意思表示があっても、あげていない・もらっていない、ということになってしまう場合について、お話します。
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贈与が成立しなかったら?
Aさんの生前に、AさんからBさんにある財産を贈与したと思っていたけれども、実はその贈与が成立していない、ということになれば、その財産の所有者はAさんのままです。
相続税対策として生前にBさんに贈与したつもりだったとしても、贈与が成立しておらず、そのままAさんが亡くなったら、その財産はAさんの相続財産として相続税の課税対象になります。
定期預金の証書を渡せば贈与になる?
Aさんが生前に、Aさんのお金を元手にBさんの名義で定期預金を作り、その定期預金をBさんに贈与しようと、その定期預金証書をBさんに渡したとします。
通常、物を贈与する場合、相手にその物を渡すハズです。
しかし、預金の場合、相手に渡すと言っても、そのお金自体は銀行に積んであるので渡せませんから、「その預金債権を証明する書類」=「定期預金証書」を渡せば贈与になる、と思われるかもしれません。
贈与・受贈の意思表示があってもダメな場合
出典:TAINS(J84-4-15)
(平成19年5月相続開始に係る相続税の①各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分、②過少申告加算税の賦課決定処分、③修正申告・①一部取消し、棄却、②棄却、③却下・平23-08-26公表裁決)
預金証書を生前に手渡しているから相続財産ではない?
請求人らは、本件被相続人がその預金原資を出捐した請求人らの名義の各定期預金(本件各定期預金)について、本件各定期預金に係る証書が本件被相続人の生前にそれぞれ各名義人へ手渡された時点で、本件被相続人からの贈与の履行が完了しているから、相続財産とはならない旨主張する。
贈与契約は成立していても贈与は成立していない?
しかしながら、確かに、本件被相続人と請求人らとの間で、本件各定期預金に関する書面によらない贈与契約がそれぞれ成立したものと認められるものの、書面によらない贈与は、その履行が終わるまでは当事者がいつでもこれを取り消すことができることから、その履行前は目的財産の確定的な移転があったということはできないので、この場合の贈与の有無、すなわち、目的財産の確定的な移転による贈与の履行の有無は、贈与されたとする財産の管理・運用の状況等の具体的な事実に基づいて、総合的に判断すべきである。
届出印がなければ定期預金は下ろせない
これを本件についてみると、定期預金を自由に運用するためにはその届出印が必要となるところ、本件各定期預金の届出印は、その保管状況・使用状況・各名義人の当該届出印に対する認識及び本件各定期預金に係る証書の改印状況などを勘案すると、相続開始時点においても本件被相続人が引き続き管理していたものと認められることから、本件各定期預金について、本件被相続人から各名義人へ確定的な移転があったとまではみることができない。したがって、本件各定期預金は、贈与によって請求人らが取得したものとは認めることができず、相続税の課税財産に該当する。
想う相続税理士