相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続税の申告における「債務控除」と「贈与財産」の関係について、お話します。
これを「生前贈与加算」と言います。
想う相続税理士秘書
国税庁HP・タックスアンサー(一部抜粋加工)
No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人が、被相続人からその相続開始前3年以内(死亡の日からさかのぼって3年前の日から死亡の日までの間)に暦年課税に係る贈与によって取得した財産があるときには、その人の相続税の課税価格に贈与を受けた財産の贈与の時の価額を加算します。
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借入金があれば相続税は安くなる
相続税を計算する場合には、土地や預貯金などの相続財産から、借入金などの債務や葬式費用を控除した正味財産に対して計算されます。
債務や葬式費用を控除することを、「債務控除」と言います。
1億円の預金を相続しても、4,000万円の借入金を引き継ぐのであれば、
1億円△4,000万円=6,000万円
を正味財産として、相続税を計算するのです。
相続により確かに1億円入ってきますが、4,000万円の借入金を引き継いで返済すれば、手元に残るのは6,000万円になるからです。
それでは、その1億円が生前に贈与により取得したモノだったらどうでしょうか?
相続により財産を取得しなかった場合(暦年課税贈与のみ有)
相続の際、4,000万円の借入金を引き継いだ相続人の方がいらっしゃるとします。
その方は、相続が発生する直前(相続開始年)に、亡くなった方から1億円の暦年課税贈与(通常の贈与)を受けていたとします。
「1億円の贈与を受けたんだから、借入金は俺が引き継いで返済するよ。1億円の中から返せばいいし。1億円の贈与は相続開始前3年以内だから、生前贈与加算で相続税の課税対象になって、4,000万円をそこから債務控除すればいいんでしょ。」という感じです。
この方は、債務控除できません。
なぜなら、相続で財産を取得していない(下記の「相続又は遺贈により財産を取得した者」ではない)からです。
相続税法(一部抜粋・出だしの主語部分のみ)
第13条 債務控除
相続又は遺贈(包括遺贈及び被相続人からの相続人に対する遺贈に限る。以下この条において同じ。)により財産を取得した者が
最初に引用したタックスアンサーの出だしの主語のところをご覧いただくと、「相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人が」となっています。
つまり、相続で財産を取得した方のみ、3年以内贈与が相続税の課税対象になります。
この方は、相続で財産を取得していないので(暦年課税の生前贈与のみなので)、その1億円は生前贈与加算の対象にならず、1億円に対する贈与税を納めることになります。
相続により財産を取得しなかった場合(相続時精算課税贈与のみ有)
同じ贈与財産でも、必ず相続税の課税対象となる相続時精算課税による贈与財産は、債務控除が可能です。
国税庁HP・タックスアンサー(一部抜粋加工)
No.4126 相続財産から控除できる債務
相続税を計算するときは、被相続人が残した借入金などの債務を遺産総額(相続時精算課税の適用を受ける贈与財産がある場合には、その価額を加算します。)から差し引くことができます。
相続によりちょっと財産を取得した場合(暦年課税贈与のみ有)
上記でお話した1億円の暦年課税贈与を受けていた方が、「相続で財産を取得すればいいんでしょ(『相続又は遺贈により財産を取得した者』になればいいんでしょ)。」ということで、遺産分割協議により10万円の現金を相続したとします。
この場合、1億円+10万円△4,000万円=6,010万円に対しての相続税が課税されることになるのでしょうか?
実は違います。
10万円△1億円=△9,990万円<0円 ∴0円
0円+1億円=1億円
に対しての相続税が課税されます。
「相続で財産を取得しても、債務控除の対象となるのは、あくまで相続で取得した財産のみ」なのです(上記でお話したように、相続時精算課税贈与財産はOK)。
相続税法基本通達(一部抜粋)
19-5 債務の通算
法第19条の規定により相続開始前3年以内に贈与によって取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算した場合においても、その加算した財産の価額からは法第13条第1項、第2項又は第4項に規定する控除はしないのであるから留意する。
想う相続税理士
次のような計算過程になっています。
- 取得財産の価額
- 相続時精算課税適用財産の価額
- 債務及び葬式費用の金額
- 純資産価額(①+②△③)(赤字のときは0)
- 純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産価額
- 課税価格(④+⑤)(1,000円未満切捨て)