相続税専門税理士の富山です。
今回は、贈与の成立と贈与契約書の関係について、お話します。
贈与が成立するための要件とは?
民法(一部抜粋)
(贈与)
第五百四十九条 贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。
贈与は、あげる側(贈与者)ともらう側(受贈者)の「あげます」「もらいます」という意思表示により成立します。
その双方の意思表示を、書面により証明しなければ、贈与が成立しない、というワケではありません(「書面に残せ」とは、どこにも書いてありません)。
しかし、民法には、この条文の次に、書面と贈与の関係に関する条文があります。
書面の有無により贈与の性質が変わる
民法(一部抜粋)
(書面によらない贈与の解除)
第五百五十条 書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。
前半部分を読んでいただくとお分かりのとおり、書面がないと、「あげます」「もらいます」という意思表示により贈与が成立しても、その契約が解除され得るのです。
解除されたら、その贈与契約は当然「無効」です。
最初から贈与がなかったことになります。
物が移転すれば贈与契約書が無くても大丈夫なのか?
続いて、同じ条文の後半部分を読んでみましょう。
民法(一部抜粋)
(書面によらない贈与の解除)
第五百五十条 書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。
「ただし」とありますから、履行が終われば、解除はできない、ということです。
そうすると「履行さえしてしまえば、書面が無くても贈与は成立する」ということになります。
でも、この「履行」がクセモノなのです。
何をもって「履行」というのでしょうか。
例えば、父から子にお金を贈与する場合、預金の名義が父から子に変われば贈与かというと、贈与にならない場合もあります。
その名義が変わった預金通帳を、父が子に渡しても、贈与にならない場合もあります。
その預金に対する父の管理・支配が継続している場合です。
子が自由にその預金を下ろせない場合です。
つまり、この場合の「履行」とは、実質的な所有権の移転であり、形式的なモノでは履行に該当しません。
この、実質的な贈与が成立したのかどうかが分からない(不明確な)状態で、父が亡くなった場合、(預金の名義が変わっていたり、子供が預金通帳を持っていて)形式的に贈与っぽい感じになっていたとしても、(父が届出印を子に渡していなかったりして)実質的には贈与が成立していないのではないか、と税務署に疑われてしまう可能性があり、残された子は、それに対する反論が難しい(父にはもう証明してもらえない)という事態が生じます。
したがって、残される受贈者にとっては、書面(贈与契約書)がある贈与の方がアリガタイのです。
想う相続税理士