相続税専門税理士の富山です。
今回は、一部の財産の分割についてしか記載のない遺言が残された場合の税務上のリスクについて、お話します。
小規模宅地等の特例は一人で勝手に受けられない!
相続税の申告には、一定の居住用または事業用の宅地について、最大で8割引き評価できる「小規模宅地等の特例」というモノがあります。
この特例には、限度面積要件があります。
したがって、複数の土地が適用可能であっても、適用できる土地とできない土地が出てくる場合があります。
そこで、申告の際には、どの土地について小規模宅地等の特例を適用するか、ということについては、その適用可能となる土地を取得した相続人等の全員の同意が求められます。
みんなでちゃんと話し合って、どの土地に適用するか決めてから申告してね、ということです。
例えば、適用対象となる土地がア土地とイ土地だけであり、ア土地をAさんが取得し、イ土地をBさんが取得したとします。
限度面積の関係上、ア土地かイ土地のどちらかにしか適用できないとします。
ア土地について適用するのであれば、(ア土地を取得するAさんは、自分の取得する土地の評価額が下がり、結果として、自分の納付する相続税も安くなるので、ア土地について適用することに同意するでしょうが)イ土地を相続するBさんの同意を得なければならない(Bさんは自分が取得するイ土地について特例を適用すれば、自分の納付する相続税を安くすることができるのに、それを放棄することに同意する)、ということになります。
一部の適用可能土地しか遺言に書かれていなかったら?
上記の例で、亡くなった方が「ア土地をAさんに相続させる」ということだけが書かれた遺言を残していたとします。
相続人はAさんとBさんだけだとします。
ア土地はAさんのモノになりますが、それ以外の財産は、AさんとBさんで遺産分割協議により取得者を決めることになります。
相続税の申告期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。
この10ヶ月以内に遺産分割協議がまとまらなかったとします。
まとまらなくても相続税の申告は必要ですので、ア土地の取得者はAさん、それ以外の財産はAさんとBさんの共有、という内容で相続税の期限内申告をすることになります。
この時、イ土地については小規模宅地等の特例の適用を受けることができません。
小規模宅地等の特例には「取得者の要件」があるため、取得者が決まっていないイ土地については、その適用が受けられないのです。
イ土地について適用を受けるためには、「申告期限後3年以内の分割見込書」を相続税の申告書と一緒に提出し、分割が決まったら、再申告の際に適用を受けることになります。
今回、適用が受けられるとすれば、取得者が決まっているア土地です。
この時、Bさんがア土地について小規模宅地等の特例を適用することについて同意しなければ、ア土地については、今回の申告でも、分割が決まった後の再申告でも、特例の適用を受けることができません。
この相続における特例適用が可能な土地は、ア土地・イ土地です。
ア土地の取得者は、Aさんです。
イ土地の取得者は、共有状態なので、AさんとBさんです。
名前が登場したAさん・Bさん全員の同意が必要なのです。
Bさんが「NO」と言えば、特例の適用は永遠に受けられません。
ア土地以外の遺産分割協議が成立して、相続税の申告書を再提出する際でも、ア土地については特例を適用することができません。
「申告期限後3年以内の分割見込書」が提出されていてもです。
取得者が決まっているア土地について、小規模宅地等の特例を適用せずに期限内申告書を提出した場合には、「ア土地について特例を適用しないことを選択した」と税務署にみなされるからです。
どうすればよかった?
小規模宅地等の特例が適用できるかどうかで、相続税は大きく変わります。
もし、遺言で財産をあげる際に、相続人等がモメたとしても小規模宅地等の特例を間違いなく適用させてあげたい、というお考えがある場合には、適用可能となる土地すべてを一人の人に取得させるしかありません(上記の例だと、Aさんにア土地・イ土地どちらも遺言で相続させる)。
または、上記の例で、Aさんが遺贈の放棄をすることにより、あえて、ア土地を未分割状態にすれば、その後の遺産分割協議の成立後における再申告の際に、ア土地について特例を適用することができます(遺産分割協議の行方によっては、ア土地をAさんが相続できないかもしれませんので、ご注意を)。
想う相続税理士
大事な土地だけ遺言に書いておけばいい、というのは危険ですので、ご注意を。