相続税専門税理士の富山です。
今回は、下記の過去の最高裁判所の判例について、お話します。
参考 最高裁判所判例集裁判所相続税の申告期限は「知った日」の翌日からカウント
相続税の申告書の提出期限は、相続税法第27条に次のように定められています(一部抜粋)。
~の規定による相続税額があるときは、その相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内に~申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
相続の開始があった日(死亡日)の翌日から10月以内ではなく、相続の開始があったことを「知った日」の翌日から10月以内です。
一般的には、相続税の申告をする方は身内である相続人の場合が多いですから、死亡の事実もその死亡日に知ることになることがほとんどかと思います。
ですから、ネットの記事などを見ていても、あえて「知った日の翌日から」ではなく、「死亡日の翌日から」と記載しているモノをよく見かけます。
私も、文章が冗長になってしまうなと思う場合には、そのように書く場合もあります。
しかし、「『知った日』の翌日」と規定されていることが深い意味を持つ場合があります。
認知症などにより意思能力のない方は、相続の開始を知ることができません。
つまり、申告期限をカウントする開始日が存在しない、もっと言うと、申告期間が始まらないのです。
意思能力がなければ相続税を負担しなくてもOK?
認知症の方については、相続の開始があったということを知り得ないので、申告期限が到来しないということなのですが、申告期限が来ないから相続税を負担しなくてもいい、ということになったら、課税の公平が図れませんよね。
他の相続税を納める人から文句が出るでしょう。
そこで、そのような場合には、税務署長が相続税額を「決定」することができることになっています。
相続税法
第35条 更正及び決定の特則(一部抜粋)
2 税務署長は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、申告書の提出期限前においても、その課税価格又は相続税額若しくは贈与税額の更正又は決定をすることができる。
一 第27条第1項又は第2項に規定する事由に該当する場合において、同条第1項に規定する者の被相続人が死亡した日の翌日から10月を経過したとき。
認知症の方については、相続の開始があったことを知り得ないので、申告書の提出期限がずっと到来しないワケですが、その「提出期限前」であったとしても、亡くなった日の翌日から10月を経過したのであれば、税務署長は税額を決定することができるのです。
つまり、認知症の方にも納税義務は発生します。
認知症でも相続税の申告納付の義務があるんだから・・・
上記の判決は、亡くなったAさんの相続人である意思能力の無いBさんがいて、そのBさんの代わりに相続税を申告納付した相続人Cさんがいて、そのBさん・Cさんも亡くなり、Cさんが代わりに納めた相続税を、Cさんの相続人が、他のBさん死亡に係る相続人に請求した、という内容です。
ザックリ言うと、代わりにお金を払ってあげたんだから、お金ちょうだい、ということです。
民法上の債権の発生原因は、「契約」・「不法行為」・「不当利得」・「事務管理」です。
今回は、「事務管理」に該当するものとされています。
他の人のために良かれと思ってやってあげる行為です。
今回の例ですと、「CさんがBさんのために相続税の申告納付をしてあげた」ことにより、その払った分を返してもらう権利(債権)がCさんにはある、ということです。
この判例は、相続税の申告を他の人ができるかどうかということについて判断を示したものではありませんが、代わりに相続税の申告納付をしてあげたことにより生ずる債権の存在を否定していない、というところが注目点です。
想う相続税理士
通常、このような場合には、遺産分割協議は成年後見人に代理してもらいます。