相続税専門税理士の富山です。
今回は、遺産分割のやり直しにおける、民法と税務の考え方の違いについて、お話します。
基本的に遺産分割のやり直しは不可能
遺産分割は、基本的には、やり直すことはできません。
それだけ厳格なものということです。
遺産分割協議書は、相続人全員が実印を押印する書類です。
遺産分割協議書が完成すれば、それは確定事項ということです。
民法上はやり直しが可能
しかしある最高裁の判決で
共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは、法律上、当然には妨げられるものではなく、上告人が主張する遺産分割協議の修正も、右のような共同相続人全員による遺産分割協議の合意解除と再分割協議を指すものと解される
(裁判所ホームページ)
という判示がありました。
つまり、相続人の全員が遺産分割のやり直しについて合意した場合には、それが可能だ、ということになります。
税務上は実質的にやり直しが不可能
しかし、可能というのは民法上の話であって、税法上の取扱いは異なります。
相続税法基本通達
19の2-8 分割の意義(一部抜粋)
法第19条の2第2項に規定する「分割」とは、相続開始後において相続又は包括遺贈により取得した財産を現実に共同相続人又は包括受遺者に分属させることをいい、その分割の方法が現物分割、代償分割若しくは換価分割であるか、またその分割の手続が協議、調停若しくは審判による分割であるかを問わないのであるから留意する。
ただし、当初の分割により共同相続人又は包括受遺者に分属した財産を分割のやり直しとして再配分した場合には、その再配分により取得した財産は、同項に規定する分割により取得したものとはならないのであるから留意する。
つまり、もともと「Aさんが相続する」ということで遺産分割が決まっていた財産について、遺産分割のやり直しによって「Bさんが相続する」ということになった場合、その財産は、Bさんが相続に係る分割により取得したことにはならない、ということです。
その財産は、当初の遺産分割における財産の取得者であるAさんが相続により取得し、その後、AさんからBさんへの贈与により移転した、という税務上の取扱いになるのです。
Aさんは、当初の遺産分割の結果に従い、その財産について相続税を納税し、Bさんは、Aさんからの財産の贈与移転に伴い、贈与税を納税する、ということになります。
つまり、二重に税金が課税される、ということです。
その財産についてAさんが相続税を納める訳ですから、税負担の見地から見れば、やり直していない(やり直しできていない)ということになります。
想う相続税理士