お母様が亡くなり、その相続人の方に呼ばれてご自宅にお伺いし、「前の相続(お父様の相続)の時にはどういう風に財産を分けたんですか?」と聞くと、「前の相続の時には、我々子供は相続を『放棄』したんですよ。」と言われることがあります。
「えっ?家庭裁判所で手続きしたんですか?」と聞くと、「そんなことはしていない。」とおっしゃいます。
「遺産分割協議書を作って、相続人の皆さんで判子を押しましたか?」と聞くと、「そうそう、やった。」とおっしゃいます。
真相は、「遺産分割協議書で遺産分けを行い、その協議の中で、お母様が全財産を相続した(子供は財産を相続しなかった)」ということなんですね。
でも、これと「相続放棄」は全く違います。
「相続放棄」と言うのは、家庭裁判所で、亡くなった方の権利や義務を一切受け継がない、という手続きをすることです。
財産を相続しない、という点では、遺産分割協議書を作成した場合と確かに同じです。
しかし、「相続放棄」をすると、「次」の相続人に相続順位が移ります。
「相続放棄」は、「新たな相続人」を生み出す手続きなんです。
相続人に誰がなるか、はその順番が決まっていて、配偶者は必ず相続人になるのですが、それ以外だと、
第1順位:子
第2順位:直系尊属(両親など)
第3順位:兄弟姉妹
という順番になります。
亡くなった方にお子さんがいらっしゃらなくて、親御さんも既に他界されている場合、ご兄弟が相続人になった、というケースを聞かれたことがあると思います。
それは、この第1順位・第2順位の相続人の方がいらっしゃらなかったので、第3順位になった、ということです。
「相続放棄」も、この流れを引き起こします。
子が相続放棄をして、親御さんが既に亡くなられている場合、ご兄弟が相続人になります。
単純に「自分は財産を相続しなくてもよい、他の相続人のみんなで財産を相続してくれ」という場合は、ご自分が財産を全く相続しない、という内容の遺産分割協議書に署名・押印すればよいのです。
そうすれば、他の相続人が財産を相続することになります。
そこで「相続放棄」をすると、新たな相続人(亡くなった方のご兄弟)が出現して、従来の他の相続人の相続分が減ってしまいますから、ご注意を!