【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

貸付事業用宅地等の「特定貸付事業」要件は「5棟」「10室」を満たさないとダメ?

相続税専門税理士の富山です。

今回は、相続税申告における小規模宅地等の特例のうち、貸付事業用宅地等を適用する場合に、要件として挙がることがある「特定貸付事業」について、お話します。


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小規模宅地等の特例で特定貸付事業が要件になる場合とは?

小規模宅地等の特例の貸付事業用宅地等は事業的規模が要件?

上記の記事でもお話しましたが、「相続開始前3年以内に貸付事業の用に供された宅地等について、小規模宅地等の特例を適用とする場合」には、「その特例の適用を受けようとする宅地等とは別の宅地等で相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業を行っていた」ことが要件となります。

租税特別措置法(一部抜粋加工)
第69条の4 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例
四 貸付事業用宅地等 被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令で定めるものに限る。以下この号において「貸付事業」という。)の用に供されていた宅地等で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したもの(特定同族会社事業用宅地等及び相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで3年を超えて引き続き政令で定める貸付事業を行つていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く。)を除き、政令で定める部分に限る。)をいう。

「除く」「除き」で対象になります。

想う相続税理士秘書

この「政令で定める貸付事業」「特定貸付事業」です。

租税特別措置法施行令(一部抜粋加工)
第40条の2 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例
19 法第69条の4第3項第4号に規定する政令で定める貸付事業は、同号に規定する貸付事業(次項において「貸付事業」という。)のうち準事業以外のもの(第21項において「特定貸付事業」という。)とする。

特定貸付事業の定義とは?

租税特別措置法関係通達(一部抜粋加工)
69の4-24の4 特定貸付事業の意義
措置法令第40条の2第19項に規定する特定貸付事業(以下69の4-24の8までにおいて「特定貸付事業」という。)は、貸付事業のうち準事業以外のものをいうのであるが、被相続人等の貸付事業が準事業以外の貸付事業に当たるかどうかについては、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で当該貸付事業が行われていたかどうかにより判定することに留意する。
なお、この判定に当たっては、次によることに留意する。
(1) 被相続人等が行う貸付事業が不動産の貸付けである場合において、当該不動産の貸付けが不動産所得(所得税法(昭和40年法律第33号)第26条第1項《不動産所得》に規定する不動産所得をいう。以下(1)において同じ。)を生ずべき事業として行われているときは、当該貸付事業は特定貸付事業に該当し、当該不動産の貸付けが不動産所得を生ずべき事業以外のものとして行われているときは、当該貸付事業は準事業に該当すること。
(2) 被相続人等が行う貸付事業の対象が駐車場又は自転車駐車場であって自己の責任において他人の物を保管するものである場合において、当該貸付事業が同法第27条第1項《事業所得》に規定する事業所得を生ずべきものとして行われているときは、当該貸付事業は特定貸付事業に該当し、当該貸付事業が同法第35条第1項《雑所得》に規定する雑所得を生ずべきものとして行われているときは、当該貸付事業は準事業に該当すること。
(注) (1)又は(2)の判定を行う場合においては、昭和45年7月1日付直審(所)30「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)26-9《建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定》及び27-2《有料駐車場等の所得》の取扱いがあることに留意する。

最後の最後で、所得税基本通達が出てきます。

所得税基本通達(一部抜粋加工)
26-9 建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定
建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべきであるが、次に掲げる事実のいずれか一に該当する場合又は賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみてこれらの場合に準ずる事情があると認められる場合には、特に反証がない限り、事業として行われているものとする。
(1) 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。
(2) 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。

この(1)(2)がいわゆる「5棟10室基準」「5棟」「10室」です。

それでは、「5棟」「10室」を満たしていないと、特定貸付事業に該当しないのでしょうか。

「5棟」「10室」じゃなくてもOKの場合もある!

参考 平成5(行ウ)157  課税処分取消請求事件 平成7年6月30日 東京地方裁判所裁判所HP

小規模宅地等の特例の改正前の裁判例ですが、参考になる部分があります。

2室のみ(「Aの行っていた本件ビルの貸付けについてみるに、その規模は、わずか二室にすぎないこと」)の物件です!

想う相続税理士秘書

裁判要旨(一部抜粋加工)
租税特別措置法(平成4年法律第14号による改正前)69条の3第1項(以下「本件特例」という。)所定の「事業」は、本件特例の制定及び改正の経緯、趣旨及び目的に照らし、所得税法上の事業と同義に解すべきであるが、所得税法は事業の意義について一般的な定義規定を置いていないから、所得税法上ひいては本件特例上の事業概念は社会通念に従って判断するほかなく、本件特例にいう事業に当たるか否かは、営利性、有償性の有無、継続性、反復性の有無、自己の危険と計算における企業遂行性の有無、その取引に費やした精神的、肉体的労力の程度、人的、物的設備の有無、その取引の目的、その者の職歴、社会的地位、生活状況などの諸点を総合して、社会通念上事業と言い得るかによって判断されるべきであり、これらの判断に当たって役務提供の程度や事業規模の大小のみを殊更重視するのは相当ではない
5階建てビル(床面積は各階約110平方メートル)の敷地が租税特別措置法(平成4年法律第14号による改正前)69条の3第1項に定める事業の用に供する宅地に該当しないとしてされた相続税の更正処分につき、同建物は住居兼用ビルであり、貸室として利用されているのは2フロア分の2室にとどまる上に、賃貸のための従業員は用いられておらず、管理人室等の管理施設も存在しないなどの事情があるとしても、同貸室からの賃料収入が、同ビル建築のために銀行から借り入れた金員を返済するための唯一の原資であること、同ビルは、当初からその一部を継続的に賃貸することを目的として建築され、現にその貸付けが継続されていること、被相続人は貸付けのための管理業務に一定程度の精神的肉体的労力を費やしていたものとみられること等の諸点を総合すれば、同建物の貸付けは社会通念上事業といい得るものであり、同項所定の事業に該当するというべきである

所得税基本通達26-9をあらためてよく見てみると、あくまでも「社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべき」と書いてあり、じゃあ「5棟10室」は何かというと、「その判断が難しい場合でも、5棟10室を満たしている場合には、特に問題がなければOK」という意味で出てくるモノなんです。

ですから、5棟10室なくても、特定貸付事業に該当する場合はあるのです。

想う相続税理士

数字に引っ張られないように、ご注意を。